雨が降っている。
　六月だから割と日常的な風景。
　梅雨。
　僕はなぜだか一年の中で六月が一番好きだ。ほかの月に比べて時間がとても穏やかに流れる。まるで時間が少しためらいがちに、夏を目前にして自分だけの「時間」を楽しんでいるよう。

　雨も嫌いじゃない。とりわけ六月の雨は、夏の終わりの夕立の刹那的な激しさや、秋の雨の非日常的な狂気とは違って、それはただ静かに降り続ける。本当に「しとしと」降る。
　小さい頃、雨が降っていて外で遊べない日、一人で本を読んでいる時間がとても幸せだった。高校の授業中、雨で誰もいない校庭を眺めながら、遠くに聞こえる先生の声やクラスメイトのささやき声に耳を傾けていると、不思議と落ち着いて自分の想いに没頭することが出来た。
　思うのだけれど、六月の雨にはいろんなものの緊張を解きほぐし、全てを穏やかに薄いベールで包んで、とんがってる角っこを見えなくさせてしまう力がある。それは僕にはとても心地よい状態。

　「なぜだか」って書いたけど、実は六月好きには理由がある。それは誕生月だから。恥ずかしいほど平凡な理由だし、この年になってまだ誕生日を楽しみにしてるのかと笑われそうだけど、そうなんです。でも、誰かにお祝いをしてもらうことや、プレゼントを楽しみにしている訳ではなくて、たとえば車の走行距離のメーターが、きりのいい数字にくるっと変わる瞬間を目撃した時の興奮にも似て（ちなみに僕はそういう瞬間が近づいていることに気づくと、絶対に見逃したくないと思うあまりに、極端に前方不注意な運転に陥る。かなり危険）、自分の年齢が一つ繰り上がる瞬間を感じることが出来るのが好きなのだと思う。もちろん、時間っていうものはとぎれのない瞬間の連続なわけで、そんな区切りみたいなものには大して意味がないことはわかっているのだけれど。

　だいたい、"June"っていう言葉の響き、それだけで僕はグッとくる。なぜだか分からない。6という数字も好きだ。銭湯の下駄箱は六番を選んでしまう。あじさいが咲いているのを見ると少し涙が出そうになる。

　そんなわけで、昔から六月には深い愛着がある。そしてそんな気持ちでいると、不思議と六月には色々なことが起きる。それもなぜだかいいことがたくさん起きる。すてきな人や物や場所との出会い。その後の僕の人生のベクトルを決定的に変化させてしまうことになる出来事も少なくない。もしかしたら、それは気の持ちようということなのかもしれない。だけど僕にとっての"June Smiles"が続く限り、毎年六月は、僕にやさしい時間をくれるのだという予感がする。いいよね。