以上長々と書いたけれど、これらはすべてフィクションです。嘘です。そんなわけないじゃないですか。僕にこんな事が出来るわけがない。なんでこんな無意味な嘘を書いたのだろう。ごめんなさい。

　ここからは本当の話。

　僕はおそらく、ガーデニングはおろか、ペットを飼ったり何かを育てることを、性格的な欠陥により、もっともしてはいけない人間の一人だと思う。

　小学生の頃、クラスで飼育していた金魚を、夏休みの間誰があずかるのかという話になったとき、自分が持って帰ると言い張り、激しい争奪戦の結果その栄光の権利を得たはいいものの、果たしてその金魚は翌朝、玄関先の小さな金魚鉢の中でおなかを上にして浮いていた。その後の長い夏休みの間の精神的苦痛は想像を絶するものだった。誰にも言えなかった。

　縁日で買ってもらったミドリガメは、とてもかわいかった。確か名前も付け、煮干しを餌にやり、そのユーモラスな表情を眺めては一日中遊んだものだ。本当にかわいかったはずなのに、いつの間にかミドリガメの存在は、僕の記憶のなかから消えていた。「あっ」と思い出した数ヶ月後には、哀れなミドリガメは、ベットの下の水槽のなかで、半ばミイラ化した状態だった。あまりの出来事に茫然自失となった僕は、今度も誰にも言えずに、その亡骸を近くの公園の砂場に埋めにいった。

　はっきり言って最低である。

　雨の中鳴いていた子猫を拾ってきたこともある。白と黒のブチだった。僕にとてもよくなつき、どこへ行くのにもついてきた。この時はあまりのいとおしさに、気も狂わんばかりだったのだけれども、そんなときミドリガメの記憶が頭をよぎった。怖かった。とても耐えきれなくなって、猫好きの友人にあげてしまった。
　その後この猫はその友人宅から逃走したそうである。それでよかったのだと思うのだけれど、今も少し気がかりではある。

　それ以来、ペットを飼うような危険は犯していない。絶対に無理だと思う。僕にはほかの生命に責任を持つようなことは出来ない。

　かなり前置きが長くなってしまったけど、そんな僕が今ある植物を育てている。
　そもそものきっかけはというと、ある箱入りのアイスクリームを買ったとき、おまけとしてハーブの種がついていたのである。たまたまベランダに、とあるライブハウスの開店祝いにもらった鉢植え（ちなみにこのライブハウスはすでに存在しない。これも悲しい現実）が数年間放置された残骸があったので、何の気なしに植えてみた。すると数日後には、にょきにょきと芽が出てきたのだ。最初のうちは嬉しくて、せっせと水をやったりしていたのだけれど、やはり案の定というか、例のごとく、しばらくするとその存在を忘れてしまい、気がついたときにはハーブは完全に枯れ果てていた。が、しかし、よく見ると枯れたハーブのなかから見たこともない芽がでている。植えた覚えのない芽。それもとても瑞々しく、青々としている。好奇心にかられた僕は、早速水をやってみた。この芽はぐんぐんと成長する。とんでもないスピードで。花まで咲いた。桃色の小さな花だ。もう1ヶ月程になるけれど、今も順調に成長を続けていて、もうすぐ二度目の花をつけそうな勢いだ。

　一体どういうことだろう。鳥が種を運んできたのだろうか。それとも風が。感動した。これは、はかりしれない自然の驚異とは言えないだろうか。

　本当に見たこともない植物である。これはたぶん、僕の植物に対する知識の浅さによるものだろう。しかし、もう少しこの自然の驚異にさらされていたい。だから、誰も僕にこの植物の名前を教えないでください。